ASEAN、ミャンマー和平で進捗指標 11月首脳会議に付託へ
長期特使の設置も検討 マニラの外相会議が閉幕

東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相らは7月21日、マニラ首都圏パサイ市で開いたミャンマー情勢に関する拡大非公式協議で、「5項目合意」(5PC)の履行状況を測る指標(ベンチマーク)を整備することで一致した。議長国が毎年交代する現行の特使方式を改め、長期の特使を置く案の検討にも着手した。シンガポール紙ストレーツ・タイムズによると、両案は高級事務レベル(SOM)で内容を詰めたうえ、11月にフィリピンで開かれる第49回ASEAN首脳会議に付託される。
ASEAN議長国特使を兼ねるフィリピンのマリア・テレサ・ラザロ外相は協議後、記者団に「11月の首脳会議への提出材料であるだけに、内容をしっかり詰めるよう高級事務レベルに指示した」と述べた。
同紙によると、協議ではブルネイが、特使の活動を支える専従の部署をASEAN事務局内に設ける案を提示した。ただし、資金の手当てや運用の枠組みなど詰めるべき点が残っている。閣僚が「実証可能な進展」をどう評価するかを定めるため、ASEANとして「ノンペーパー」(非公式文書)の作成も進めているという。
フィリピン通信社(PNA)によると、ラザロ外相は現行の1年任期の特使方式について、全体像を把握し続ける必要があるため実効性に乏しいとの認識を示した。またマニラ・タイムズによると、同外相は一連の会合を通じてミャンマーが恒久的な解決に至るのを支援するとの決意について「楽観している」としたうえで、その解決は「ミャンマー自身が主体となり、ミャンマーが主導する」ものでなければならないと語った。
閣僚級の出席はバンコクのみ
PNAによると、21日にマニラで開かれた会合のうち、拡大非公式協議は議長国フィリピンが主宰し、ミャンマー側の出席者はなかった。一方、同じ21日の第59回ASEAN外相会議(AMM)本体には、フィリピン外務省が事前の記者会見で説明していたとおり、ミャンマーからハウ・カン・スム外務省常任次官が出席した。ASEANは閣僚・首脳級の公式会合についてミャンマーの「非政治的レベルの代表」方針を続けており、この方針を変更できるのはASEAN首脳である。
これに対し、今回の協議の下敷きとなった7月12日のバンコク会合には、ミャンマー側からティン・マウン・スエ外相が出席した。ミャンマーの外相がASEAN外相と対面で協議するのは5年ぶりで、シンガポール外務省によると、ASEAN外相はこの場でミャンマー側から国内情勢の説明を受け、5項目合意を改めて確認するとともに議長国特使の取り組みに全面的な支持を表明した。フィリピン外務省によれば、ラザロ外相は同会合を、ASEANの公式会合ではなく継続的な協議の初期段階だと位置づけている。
マニラでは、このバンコク会合で示された進捗評価の枠組みと長期特使の両案が改めて議論された。
共同コミュニケを採択
第59回ASEAN外相会議は21日に共同コミュニケを採択し、ASEAN事務局が23日に全文を公表した。シンガポール外務省の発表によると、外相らは5項目合意を改めて確認し、暴力の恒久的な停止、すべての政治犯の解放、全土における安全かつ妨げのない人道支援の届出など、履行に向けた具体的かつ測定可能な措置を求めた。平和的で持続的な事態の収拾には、主要な当事者すべての間での建設的な対話が重要だとも強調した。
一方、ミャンマー側では連邦議会(ピーダウンス・フルッタウ)が7月上旬、5項目合意について外交ルートを通じて正式に見直しを求める動議を可決している。ミャンマー情報省の発表によると、動議は同枠組みが現在の政治的現実と合致せず、国家主権の基本原則に反すると主張している。
この議会決議によって5項目合意は拒まれたのか。ストレーツ・タイムズによると、そう問われたラザロ外相は、7月12日のバンコク会合でティン・マウン・スエ外相自身が「5項目合意は今も存在する」と述べたと明かした。そのうえで、ミャンマーの外相本人がそう説明した以上、議会の決議は事実上効力を持たないとの認識を示した。
日本、ASEANの取り組みを後押し
日本の外務省の発表によると、日ASEAN外相会議は22日午後、マニラで約1時間開かれ、茂木敏充外務大臣と、ASEANの対日調整国であるシンガポールのビビアン・バラクリシュナン外相が共同議長を務めた。ASEAN側から南シナ海、ミャンマー、中東の情勢に言及があった。
茂木外相はミャンマーについて、情勢改善には暴力の即時停止、被拘束者の解放、当事者間の真摯な対話を含む政治的進展、国民生活の向上に向けた取り組みが不可欠だと指摘。日本は今後も5項目合意の実施といったASEANの取り組みを後押しし、ミャンマーの人々が直接裨益する形で人道支援等を継続していく考えを示した。
同省によると、茂木外相は開会挨拶で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現の中核を成すのがASEANだと述べ、本年5月に発表した進化したFOIPの要点は各国が「自律性」と「強靱性」を身につけることにあると説明した。日ASEAN協力では、巡視船供与等による海上法執行能力の強化、組織的詐欺対策でのASEANAPOLへの新規拠出、「日ASEAN・AI共創イニシアティブ」、中東情勢を受けて立ち上げた「パワー・アジア」やアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の下でのエネルギー協力などを挙げた。
専門家「調整に近い」
シンガポールのISEAS・ユソフ・イシャク研究所のシャロン・セア主席研究員はストレーツ・タイムズに対し、今回の動きは根本的な変更というより調整(リキャリブレーション)に近いとの見方を示した。ASEANは5項目合意を軸に据えたまま、ミャンマー当局との経路を維持したい加盟国にも配慮しているという。
同研究所ASEAN研究センターのジョアン・リン・ウェイリン氏も同紙に、加盟国が個別にネピドーとの接触を維持しており、ミャンマーがASEAN全体の要求に応えないまま個々の加盟国から受け入れを得れば、集団としての影響力が弱まりかねないと指摘した。同研究所ミャンマー研究プログラムのモー・トゥーザー氏は、バンコクとマニラの会合は5項目合意を放棄するのではなく既存の対話経路をより有効に使おうとする試みだと述べた。
今後の焦点は高級事務レベルでの詰めの作業に移る。指標については「ノンペーパー」の内容が、長期特使については任期・権限と事務局内の支援部署、その資金負担のあり方が具体化の鍵となる。実務面では、フィリピン外務省が年後半に予定するとしている同国主導の人道支援ミッションが、関与再開の実効性を測る最初の試金石となりそうだ。
ASEAN事務局によると、第59回AMMと関連会合は7月18日から24日までマニラで開かれ、対話国との拡大外相会議(PMC)、ASEAN+3(日中韓)外相会議、東アジアサミット(EAS)参加国外相会議、ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合を経て、24日の東南アジア友好協力条約(TAC)署名50周年記念行事で日程を終えた。